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2022年1月 7日 (金)

『小説 岩波書店取材日記』

中野慶著(かもがわ出版)の本書は、小説の形をとってはいるが、岩波書店の職場が経営と労働組合の関係性を軸にして細部までリアルに描かれている。岩波の中にいた人間でなければ絶対に書けない書である。

知は力なり。岩波書店の伝統に対する愛着。特定のイデオロギーにとらわれず、政党政派に偏ることなく、しかし断固として平和と民主主義の前進を追求する立ち位置に対するリスペクト。

同労組の古さと純粋さと柔軟さ。その人間性に対する信頼。

著者は、岩波書店と同労組に対する限りない愛情をもって綴る。

保守性と進歩性。一見矛盾する色彩が、会社にも組合にもあるが、それが多様性という形で共有されているところに特質がある。

本書は、登場人物の会話を通して、この様々な側面を正直に表出する。会話の中で、対立した見解を述べ合うことによって、その多面性と統一が浮き彫りにされる。

見事な形態を考え出したものだ。

20年間同労組の顧問弁護士であった私としても共感するところ大である。

もちろん私はごく一部を垣間見ただけであるが、納得感がある。

登場人物の雑談の中に、「マルクスがフォイエルバッハを乗りこえたという常識の再検討」「レーニンと訣別」といった会話も登場してくるが、次著はこの辺を深堀してほしいと思う。

ちなみに、私についても触れられている。そこで紹介されている拙著『刑事司法改革 ヨーロッパと日本』(岩波ブックレット・共著)は、著者の編集により生まれたものであった。

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