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2016年5月

2016年5月26日 (木)

地方紙が光る

524日ついに刑訴法等改正法が成立した。

日弁連が賛成したにもかかわらず民進党(民主党)の衆参法務委員もよく頑張り、衆参両院法務委員会で真剣な審議が行われた。私は、衆参両院法務委員会に参考人として出たが、両院共に、真剣に聞いてくれたと感じている。

与野党を問わず法務委員の中で法案の問題点が共有されたと思われたが、トップダウンで民進党が賛成に回った。

参議院法務委員会での与野党の最終討論は、賛成討論という名の実質反対討論であった。衆議院でも同様の傾向であった。共産党の反対討論は議場を圧倒したとも聞く。

しかし可決された。立法府が行政府に抑えられ、立法府の機能を果たしていない様をつぶさに目撃した。日本は未だに、三権分立とは名ばかり(形式)で、行政府に牛耳られている“前近代社会”であると言わざるを得ない。

日弁連が賛成したこともあり、マスコミの動きがきわめて鈍かった。改正法成立に当たって初めて大きく報道するのでは遅すぎる。その中で、地方紙が光っている。

520日付下野新聞は、「取り調べ映像 判決左右」「今市事件裁判で浮き彫り」との見出しで、「取り調べ映像で裁判の行方が決まるなら、調書裁判以上に捜査に支配される。そんな堕落した裁判の姿を見るのは国民の本意ではないはずだ。」との青木孝之教授の談話を載せ、「DVDを調書の任意性立証だけに使うべきだとの意見もあるが、ここにも落とし穴がある。映像を見た裁判員が実質証拠と区別するのは難しく、そこで有罪の心証を取ってしまうことは防げないからだ。」と的確に指摘する。裁判員だけでなく、裁判官も同様だと思うが。

弁護人の立会いもない密室での一方的な取調べの画像で裁判の帰趨がきまる…これは、公判中心主義のはずの裁判の崩壊である(拙稿「今市事件判決を受けて―部分可視化法案の問題点」『法と民主主義』本年4月号)。

同月22日付愛媛新聞は、「調書の任意性の傍証のはずが、犯罪自体を証明する『実質証拠』として扱われ始めた。映像の衝撃は大きい半面、映像にない場面は無視され…裁判員らの心証に過大に影響する疑念は拭えず、かつての供述調書偏重から映像偏重に変わっただけ…」と鋭く指摘する。

同月25日付信濃毎日新聞は、「捜査側に都合のいい部分だけが可視化され、証拠にされる可能性がある…中途半端な可視化は一歩前進どころか、後退する危険をはらむ。」と警告する。

裁判員裁判対象事件については「全過程可視化」と銘打ちながら、実は、部分可視化に過ぎない改正法の誤魔化しを正面から見据えた素晴らしい論稿である。

中央紙にも、このような見識ある見解が載せられて当然だと思うのだが…。

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2016年5月 1日 (日)

今市事件が部分可視化法案の怖さを明らかにした

今月初めの今市事件判決は、取調べの録画がないところで自白を強要し、屈服させたところでビデオ録画し、それが証拠となって有罪の心証を左右するという、録画の怖さを示した。自白すれば死刑にしないと利益誘導されて、死刑にならないように想像力を働かせて、検事の前で身振り手振りで自白する。その場面が録画され、証拠採用される。
物的証拠からは認定できない、と判決も明言。裁判員は、録画がなければ分からなかった、結論が違ったかもしれない、と記者会見で語った。
映像の力は大きい。真実と思わせられるが、一部分だけ編集され、真実とは逆の印象を与える危険性があることを知れば、それが証拠として法廷に出される怖さがわかる。
連休明けにも強行採決されようとしている刑訴法改定案は、部分録画を容認し、部分録画の証拠採用を促進する。
弁護人抜きの取調べの録画で裁判が左右される。公判中心にしようとして始まった裁判員裁判が、公判ではなく、取調べの録画で左右される。真逆だ。それは近代刑事司法の崩壊になる。
国会審議で、次々と法案の問題点が暴露されている。
① 全過程録画と言うが、「落とす」ためにぎしぎし取調べるのが仕事である警察官がそんなところを録画するわけがない、と元警察幹部の原田さんが先日の参考人質疑で断言した。
同じ参考人質疑で豊崎さんが指摘したように、そもそもこのような落とし方がいいのかをまず検討するのが前提のはずだ。
② 録画しなければ供述するが、録画すれば供述しないという関係にある場合に、録画しなくていいという例外規定が当てはまる、と政府答弁するが、法案には、「録画しなければ供述する」関係にある場合とは何も書いていない。
③ 録画しなくていい場合という例外規定を捜査側が濫用しても、裁判所が適正に判断する、という政府答弁は、答弁になっていない。裁判所はそれほど信用できるのか。そもそも、濫用できないような法律を作らなければ欠陥法案である。
④ 2015年2月最高検依命通知は、ビデオ録画の実質証拠を検討しようと明記しているのに、政府答弁は、いいとこ撮りの録画を実質証拠とする意見ではない、と言うが、意味不明である。
⑤ 盗聴の濫用には警察の監督官を置いて対処するというが、同じ警察内部で監督できるわけがない、と原田さんは断言した。
⑥組織犯罪対策と銘打ちながら、法案には組織性の限定が全くない。
⑦ 司法取引は共犯関係を想定していると政府答弁するが、法案は共犯関係に全く限定していない。
等々。
政府答弁は、濫用の恐れを解釈で限定するとの答弁に終始しているが、条文からそのような解釈は出てこない。それは濫用の恐れがある欠陥法案であることを認めているに等しい。権力は必ず濫用するものである。濫用の恐れのない法案に作り変えないで、強行採決することは乱暴極まりない。

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