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2013年6月

2013年6月25日 (火)

アエラ「官僚たちの思考回路」-「中世」発言の余波

 私のブログ「日本の刑事司法は『中世』か」に書いた、「条約機関の意義(当該政府と委員会の建設的対話)」について、朝日新聞週刊誌『AERA』の取材を受けた。「委員の批判にはどこか正しい部分があるのではないかと、批判を真摯に受け止めてほしい」と答えたくだりが紹介されている(昨日発売の『アエラ』71日号「官僚たちの思考回路」)。

安倍内閣は、618日、紙智子参議院議員(共産党)の質問に対する答弁書を閣議決定した。「(拷問禁止委員会の)勧告は、法的拘束力を持つものではなく…締約国に対し、当該勧告に従うことを義務付けているものではない」と答えている。勧告に従う法的拘束力はないが、だから勧告に従う義務がない、で終わると、「勧告に従う必要はない」「勧告は無視していい」というニュアンスになり、極めて問題である。

この後に、「しかし勧告は尊重する」とか、少なくとも、「勧告は真摯に受けとめる」と答え、実際にそうすべきである。これが「建設的対話」である。「勧告に従う義務がない」で答弁が終わってしまっては、何のための日本政府報告書審査なのか、ということになる。日本政府は、勧告を尊重する義務があるのである(日本国憲法98条2項)。

答弁書は、木で鼻をくくったもので、まともな答弁とはいえない。アエラが指摘する「官僚たちの思考回路」がそのまま投影されている。国際的には通用しない。

まともでないのは法制審素案も同じだ。取調べの可視化について2通りの案をあげているが、可視化するかどうかを捜査官の裁量で決めるという点では、どちらの案も同じだ(619日付東京新聞社説)。規制される側の捜査機関が可視化の対象を自由に決定できるという制度はナンセンスだ。

PC事件では4人の被疑者のうち2人がやってなくても自白した。自白する確率は50%。死刑になりかねない重大事件でもウソの自白をする例がこれまで沢山あった。拘禁された被疑者にとっては、いつ釈放されるかが当面の最大の関心事だ。唯一の関心事といってもいい。自分は無実だから、死刑になるという実感はない。裁判所はわかってくれるだろうと思い、きつい取調べから逃れたい一心で、ウソの自白をしてしまう。

だから、きつい取調べはえん罪を生む恐れがあるというのが歴史の教訓だ。そのために、取調べ時間を規制し、取調べに弁護人を立会わせ、全面可視化するというのが国際標準であり、今回の拷問禁止委員会の勧告だ。自白に過度に依存してはいけない。自白するまで保釈しないという日本の実務は、近代刑事司法に逆行する。あのO.J.シンプソンもマイケル・ジャクソンも、否認していてもすぐ保釈された。日本は近代刑事司法を実現していないという意味で、「中世だ」と言われても仕方がない。

法制審素案は、中途半端な可視化とバランスをとるとして、通信傍受などの捜査権限を拡大しようとしているが、もってのほかだ。法制審特別部会は一から出直すべきだ。などと素案を批判した私の前回のブログには、日曜日午後2時にアップした後の半日足らずで14400件のアクセスがあった。

まともな答弁書を書かず、拷問禁止委員会の勧告を無視しようとする日本政府と大使発言は共通する姿勢だ。国際社会に恥ずかしくない日本に早くなってほしい。「中世」発言の波紋は今もなお拡がっている。

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2013年6月16日 (日)

法制審素案は「中世の名残り」か

 615日付朝日新聞朝刊1面トップに、「取調べ可視化後退」の大見出しが躍った。法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」作業部会が14日素案を公表した。「捜査に著しい支障が生じるおそれがある」ときは可視化しなくていいという例外規定が盛り込まれるようだ。

 現状では、必ず捜査側の裁量によって可視化するかしないかが決められてしまう、それでは意味がない、ということを、口を酸っぱくして強調してきた私としては、案の定、というしかない。

 委員である周防正行映画監督の「警察、検察の方の話を聞いていると、いまだに旧来の取調べの機能にすがりついている。」との談話が載せられている。その通りだと思う。

 法制審は、旧来の取調べの機能に依拠せず、取調べを規制することをまず、全体で確認して、具体的な方策を検討しなければならなかったのに、それを怠り、あいまいにしたまま進んできたから、このような旧態依然の捜査感を打破できていない。これでは、国連・拷問禁止委員会のアフリカの委員が、「(日本の刑事司法は)中世のものだ。中世の名残りだ。」と指摘した通りであり、法制審は、拷問禁止委員会の勧告を全く無視していることになる。

 今からでも遅くない。まず、従来の取調べの機能にすがりつかないことを確認してから、具体的には、取調べ時間の法的規制と、取調べへの弁護人の立会いとセットで、全面可視化を検討すべきだ。

 拷問禁止委員会でアフリカの委員は、取調べに弁護人が立会うことが捜査の妨害になるという日本政府の答弁が理解できない、と言明した上で、件の「中世」発言をしたのだ。

 私たちは、法制審で頑張っている周防監督や村木厚子厚労省局長を激励し、支えていかなければならない。

 こんな状態で、通信傍受など捜査権限だけが拡大されるのでは、法制審は何をやっているのか、と言いたくなる。来年の通常国会にも法案が提出される見込みだといわれるが、こんな法案提出には反対すべきだ。

 拷問禁止委員会で、日本政府を代表する上田大使が、「日本は中世ではない。この分野では最も先進的な国の一つだ。それに誇りをもっている。」とまで開き直ったが、どこが先進的なのか。国際社会では、取調べ時間は短く、弁護人の立会いは常識だ。国際社会は日本政府の答弁にはほとほとあきれかえっていることを、知らないのだろうか。

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2013年6月11日 (火)

シャラップ発言などで階猛(民主党)議員が法務委員会で質問

本日の法務委員会で、階委員が私のブログを取り上げて、上田大使のシャラップ発言について、どう対応するのかと質問した。これに対して、あべ俊子外務政務官が、「それは、(拷問禁止委員会)委員の『自白に頼り過ぎではないか。これは中世のものだ』という発言に関したもので、必ずしも適切な発言ではなかったので、口頭で『注意』した。大使も、反省の意を表わしている。」と答えた。これに対して、階議員は、納得せず、「厳しい処分を」求めた。

続いて、階委員は、拷問禁止委員会の勧告のうち、取調べ時間の規制や全面可視化の部分を読み上げ、この勧告をどう受けとめるのか、質問したところ、谷垣法務大臣が、「法制審で十分議論していただき、きちんとした結論を得たい」と答えた。 

これに対して、階委員は、「この拷問禁止委員会の勧告は法制審の委員に伝えられているのか」と質問したところ、法務省が、「検討したい」と答えた。

ところで、上田大使の「シャラップ」発言がユーチューブに載っている。まさにその場面が動画としてそのまま見える。

そこで、彼の英語の発言をチェックした。イヤホンで日本語の同時通訳を聞いているときは、本人の生の英語は会場でかすかに聞こえるか聞こえない程度であったから。英語で、「笑うな。なぜ笑っているんだ」と言っている。ということは、私が日本語で聞いたのは、同時通訳の声であったことがわかった。通訳は、この言葉も忠実に訳したのだ。私は、多分、びっくりして思わずイヤホンを外したのではないか。その後の大使の「シャラップ」発言は確かに生で聞いた。

さらに、大使が、「日本は最も先進的な国だ」から「最も先進な国のひとつだ」と言い直したか、確認したところ、大使自身は、英語で最初から「最も先進な国のひとつだ」と言っている。どうやら、通訳の方が慌てたようだ。この点で、先日の東京新聞の記事は不正確であった。

そこで、先のブログもより正確に直した。

いま、大阪府警堺署の虚偽調書作成と公判での偽証が報じられている。不祥事は絶えない。取調べと自白に依存し過ぎている「中世」日本では、えん罪は絶えない(拙稿「冤罪をなくすために」『これからどうする 未来のつくり方』岩波書店編集部編(612日発売)所収)。

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2013年6月 8日 (土)

「中世」発言から―とまどいのブログ後日談

 国連・拷問禁止委員会での日本政府報告書審査の模様を書いた私の529日付ブログ「日本の刑事司法は『中世』か」に、1日だけで52,000件ものアクセスがあった。大変なことになっている、と驚いた。以前、日本テレビのワイドショーでコメンテーターをしていたときは、視聴率10%で1000万人が見ていると言われ、オウム事件のときは20%を超えたこともあったが、特にあわてたことはなかった(拙著『ワイドショーに弁護士が出演する理由(わけ)』平凡社新書)のに…。ネットの怖さだろうか。とまどった。

 いちばん伝えたかったことは、日本の刑事司法は「中世」か、というキーワードだった。だからタイトルをそうしたのだが、それ以上に日本大使の「シャラップ」発言が注目を浴びたようだ。先日、東京新聞の取材を1時間ほど受け、その大半は刑事司法について語ったのだが、翌日の65日付朝刊は、「国連で日本政府代表『笑うな、黙れ』」の大見出しとなってしまった。

 その前日に発行された日刊ゲンダイは、大使の日本語使用を皮肉った記事になっていた。当初のブログに、「日本語で挨拶した大使」と書き(後に、修正)、これが、大使の挨拶全体が英語ではなく、日本語だったという印象を与えてしまったようだ。私は、日本語同時通訳のイヤホーンをしていたが、大使が日本語で挨拶したのか、英語だったのかに関心がなかった。「笑うな。シャラップ」発言の「笑うな」は日本語、「シャラップ」は英語そのままだったように思ったのだが、後で聞き返してみると、すべて英語だった。同時通訳のため、混乱したようだ。不正確な記述だったので、これが日刊ゲンダイの出所だったとすれば、申し訳ない。日刊ゲンダイから取材を受けていれば、この点を正す機会になったのに、残念だ。

 韓国の朝鮮日報にもこの委員会の模様が掲載されているようだ。

 私が最も言いたいことは、日本では、未だに、取調べへの弁護人の立会が実現していないことと、連日長時間にわたる取調べがいまも普通に行われていること。東電OL事件では、被告人と同居していた同じネパール人が2か月近く連日「任意」で取調べられた。午前3時まで取調べられ、その後午前7時から取調べが再開されたこともあった。私が最近担当した事件では、午後8時頃自首し逮捕され、徹夜で、仮眠することもなく朝まで取調べられた。異常だ。前近代的(まさに「中世」か)刑事司法といっても過言ではない。

世界の嘲笑を買っていることが、日本の官僚司法家にはわかっていない。日本で拘禁された外国人は、家族に電話もできないのか、とあきれている(数年前の広島刑務所逃亡事件は、中国の家族に電話したくて逃亡したと報じられている)。

「取調べに過度に依存した日本の刑事司法は時代の流れとかい離したものであり、根本から改める必要がある」(20113月検察の在り方検討会議提言)という反省から設置されたはずの法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が、本年1月、中途半端な取調べの可視化と会話傍受などの新たな捜査手段の拡大をセットとする基本構想をまとめた。弁護人の立会は先送りされ、取調べ時間の規制については一言も触れられていない。何とも時代遅れな構想であり、マスコミがなぜ批判しないのか、不思議でならない。基本構想は撤回して、一から出直すべきだ(拙稿「えん罪原因の解明から刑事司法の根本的改革へ」日弁連えん罪原因究明第三者機関WG編著『えん罪原因を調査せよ』勁草書房所収)。

531日拷問禁止委員会は、日本政府に対して、1日の取調べ時間を規制し、取調べへの弁護人の立会いを実現せよと勧告した。法制審は、まずこの勧告を真摯に受けとめるところから再出発すべきだろう。

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