『イエスは四度笑った』
畏友のカトリック司祭である米田彰男君が『寅さんとイエス』に続いて、興味深い本を著した(筑摩選書)。
福音書が「イエスが生きた歴史」を修正し、美化し、キリスト教における「教義(ドグマ)」が形成されていることを大胆かつ率直に随所に指摘している。
「右の頬を打つ者には、左の頬を」の意味するところ、「情欲をもって女を見る者は誰でも、すでに心の中で女を姦淫したことになる」という言葉が発せられたシチュエーションなどを分析し、実際のイエスの真意について、従来の福音書の解釈とは異なる新しい視点を提供する。
著者は、現代聖書学の成果を踏まえながら、自信をもって打ち出している。
本書の圧巻は、「追記」であろう。ウクライナ侵攻について、プーチン大統領と共にロシア正教会総主教を批判し、ガザ侵攻については、紀元70年ローマ帝国によるユダヤ王国の破滅に遡り、中東戦争の歴史に触れ、イギリスの「三枚舌外交」を批判し、シオニストたちの原理主義的聖書解釈が「『史的イエス』の『生の言葉』や風貌から遠くかけ離れ、自らに都合のよい解釈を生み出す」と断罪する。
すさまじい迫力であり、ウクライナ侵攻、ガザ侵攻に対する心の底からの怒りに圧倒される。本書を侵攻者たちはもとより、侵攻を悲しむ全世界の人々に読ませたいという思いに駆られる。
聖書を理性的に解釈する著者の本領発揮というべきである。
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